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モリガン区 Ⅴ

作者: エチカ
last update 公開日: 2026-04-05 06:45:03

「モリガン大佐に頼まれていたのは、ただの香辛料で……」

「それが、悪用されたようだ」

「あ、くよ……う?」

「適量を守ればただの香辛料も、摂取量を間違えれば毒になる。彼らが死ぬ前に飲んだ酒には大量の香辛料が混入されていた」

「ま、さか……大佐が……? 嘘だ……」

「まだ、真相は分からん。だが、こんな分かりやすい方法で六人も害したとなれば、お前は犯人に······んだろうよ」

「仕立てられた? なのに、僕を捕まえてどうしようって言うんです?」

 段々腹が立って来て、何が正しいのかも分からなくなってくる。

 モリガン大佐は祖母を捕らえたモリガン軍の中で、唯一信用の置ける人だと思っていた。

 そんな人が人を殺しただなんて、聞いてすぐに飲み込める事態じゃない。

 あんなに優しい人が、六人もの部下を殺しただなんて。

「大佐は違う。大佐に渡した香辛料を奪ったヤツがいるんだ」

「それはどうかな。まぁ、もし大佐がシロならお前を釈放しろと直談判でもしてくるんじゃないか? 後暗い事がなければ、だが」

「もしかして、態と大佐の不在を狙って……?」

「お、良い読みだ。こっちの動きを悟られて、お前を隠されたんじゃ面倒だったからな。お前の御婆様の様に」

「婆ちゃんの様にって……?」

 ゴトン、と言う音と共に馬車の動きが止まる。

 話している内に陽が陰った森の中は薄暗く、向かいに座るサリバン公爵の顔にも影を落とした。

「お疲れ様でした、旦那様」

 馬車の扉を開けたのは、執事服の老齢の男だ。

 馬車の両脇を並走していた部下のノエルとミレーも揃って下馬し、主人が下りるのを待っている。

「オルタナ、降りろ」

 先に馬車を降ろされた目前には、森の中にひっそりと佇む様な洋館が聳え立っていた。

「いや、どこ……?」

「サリバン家の別荘だ」

「べっ……は?」

「おい、小僧。口の利き方に気を付けろ」

「ノエル、俺は気にしていない。お前達も疲れただろう。今日はもう休め」

 部下二人を労ったサリバン公爵に、食い気味に割って入ったのはミレーだった。

「いやダメでしょ。団長とその子、二人には出来ないでしょ」

「ミレーの言うとおりだ。団長、今日はベッタリ張り付かせてもらいますよ」

「お前達は俺がこのチンクシャな子供に欲情するとでも?」

 チンクシャ……。えらい言われ様だが、否定は出来ない。

「公爵閣下、そう言う問題ではないのです」

「ミレー、じゃあどういう問題だ?」

「間違いが起こってからでは遅い、と言う話です。気に入ってんのバレてますからね?」

「論点はズレてなさそうだが? ノエル、お前からも……」

「俺がミレーを口で負かせるとでも? 団長に無理なら無理でしょ」

「どうせ団長は面白そうな玩具を手に入れて、夜通し遊ぶつもりなんでしょ? 朝起こすの誰だと思ってんですか」

「執事のオブライアンだな」

「そうです。オブライアンさんに迷惑です」

「……分かった分かった。じゃあ、揃って晩餐でもしようじゃないか」

 拘束されたままのオルタナはその気安い会話を聞きながら思う。

 命の危機から一転、貞操の危機……。

 気に入ってるって? どの辺りが? 夜通し遊ぶって何だ?

 そう言えば王国じゃ有名な軽薄公爵だった、と今更思い出す。

 流した浮名は星の数程あり、数多のレディ達が婚約を希望して止まないらしいが、その一方で公爵は“運命の番”がいて、他は相手にしないのだとか。

 貴族には幼い頃から婚約者がいるのが普通だ。

 レイモンド王は、本来なら十年も前に国内の貴族の娘と結婚している予定だった。

 だが、その婚約者が病でこの世を去ってから、喪に服し去年やっとご成婚に至る事になる。

 だから、国中が湧いた。

 愛する婚約者を一心に思い続けた未婚の王子――。

 その王子がサンノ国との外交の折に見初めたラチア妃が、運命の番だったからだ。

 死んで美化された婚約者を忘れて結婚するには、運命の番と言うカード程、強い切り札はなかった。

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  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅰ

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